【艦これ】未来を、貴方に、我らに(下)
未来を、貴方に、我らに(下)

twitter企画『深夜の艦これSS60分勝負』にて、投稿したSSの再加工版となります。
この作品は上・中・下の《下》になります。
テーマ:反省
登場キャラ:愛宕 高雄 金剛
企画についてはこちらからどうぞ:http://mizunanana.web.fc2.com/kancolle.htm
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 頭痛と目眩の中で高雄は目が覚めた。目を二、三度瞬かせると、自分が布団の中にいる事に気づき――飛び上がる勢いで起きた。何かを忘れているような、そうした急激な切迫感と、そもそも自分の状況を思い出せないという縛鎖的な感情とがひしめき合う。ここは……?

 高雄は頭に手を当て、思い出そうと務めた。この部屋には見覚えがある。ここは鎮守府の近隣にある旅館の一つで、月に一度ぐらいの割合で彼女たちが遊びに来る所だ。非番が二日続けてあるような日だと、だいだいここで高雄は愛宕とお酒を飲んだり、他の重巡たちと過ごすのが常だった。泊まらなくても夕食を供してくれることもあるから、居酒屋代わりにも使える……だが、なぜここに?

 頭痛とともに映像がやってきた。

 高雄はあの夜、工廠から密かに盗みだした爆薬を、鎮守府のあちこちにセットしていた。愛宕や他の艦娘にも連絡を取って、できるだけ人命被害が出ないよう、爆破の範囲を調整した。その目的も、鎮守府自体が破壊されるような大事を引き起こすことで、金剛をはじめとした捨て艦のシステムを停止させるのが目的だった。少なくとも、爆破さえ実行されれば鎮守府の機能は駄目になるし、それに重要拠点が破壊されるような失敗をしでかせば、元締めである提督も無事ではすまない……そう考えたのだ。勿論問題もあった。深海棲艦らがその機会に襲ってくるとも限らないし、爆破によって他に被害が出るか、あるいはシステム自体には全く変化がないかもしれない。金剛たちの処遇も変わらないかもしれない。確実な要素が何もない、無謀無茶な作戦であった。そうした博打まがいの行動を実行するほど、高雄は追い詰められていた。そして自分はそれ用に爆薬(ちょうど金剛を爆破するのに使った、まさにあの炸薬)を盗み出し、訓練と独習で学んだ知識を元に、建物が崩落するようセットしていた。

 なら何故ここに寝ているのか?

 また頭痛がして彼女は呻いた。プロトコル。忌々しい《条件付け》、艦娘が人間に逆らえないようできているプログラム。爆薬を盗む事自体は《作戦行動で使用》というようにプログラム書き換えが成功したが、それを鎮守府で爆破するのは論外であった。高雄の脳に巣食った条件付けは何度も彼女の脳内にアラートを鳴らし、行動を阻害した。最も強固なプロテクトは鎮守府防衛にかかっているのか、爆破スイッチを押すことがどうしてもできなかった。高雄は何度も嘔吐しながらプログラムを拒絶しようとして……ついに倒れた。結局彼女は、自身に課せられた条件付けをとうとう打ち破れなかった。映画や漫画では人がコントロールから脱却しているが、現実はこんなものだ。血がにじむほど歯噛みした高雄は、やがて枕元に手紙が置いてあることに気づいた。

 愛宕からの手紙というのは、便箋を見れば分かった。高雄はそれを開いた。

 高雄へ、と彼女らしい丸っこい字で書かれたそれは、自分が高雄をここに運び、女将さんに暫くかくまってくれるよう頼んだ事が書いてあった。――そして、自分が鎮守府爆破を代わりに行う、とも。愛宕には計画全てを伝えてあった。直前まで高雄は彼女と一緒にいたからできないはずがない。高雄の胸が詰まって息ができなくなる。今まで自分が背負ってきた覚悟、決断を、そのまま愛宕に背負わせてしまったという呵責。自分の姉妹艦に押し付けてしまった罪悪感を思うと、腹の奥底が悼んだ。自害したいほどの自責を感じている高雄の目に、下の文章が入ってくる。

 愛宕が提督からされた事、そしてそれを愛宕が耐え忍んでいた事が、そこに書かれていた。

 そこには……さながら……業火で胸の奥を燃やされるような、高雄にとっては拷問としか思えない事が、記してあった。時期は捨て艦が始まった辺りで、「きっと提督も、自身の決断が辛かったのでしょうね。だから私を執務室に呼んだと思う」と記してあった。愛宕は見た目通り、優しくて面倒見が良い。提督に愚痴をぶつけられれば、それを黙って受け入れて、黙って決断を讃えただろう。秘書艦である高雄が反発していたから、なおさら彼の不本意も深いものであったに違いない。だがその後に起こったのは……愛宕が、彼に何をされたのか……高雄はそれを読んで、改めて目眩を覚えた。決してその辛さを文字には記せない、真の意味を何にも表すことのできない行為が、そこには延々と綴られていた。彼と彼女の事が、男と女の間で起きた事がそこにあった。そして高雄は、どうして愛宕が自分に代わって爆破を代行することができたのか、どうしてプロトコルの妨害を受けなかったのかについても、得心がいった。それは……ある意味、被害者である愛宕だからこそ、できた事なのだ。提督に触れる必要があった愛宕だからこそ、提督の権限で、ある程度の条項を解除できたのだろう。自分がそれに気づけなかった不甲斐なさに、涙が溢れた。

 末尾には「あなたの未来とあなたの道筋に、幸運を祈ります。私はあの人に汚されたけれど、あなたはまだ純粋なまま。だから私の代わりに、たくさん知らない事を、外の世界を、経験して欲しい」と記してあった。高雄は紙を掴み……手に汗がにじんで……自分の無力さを恥じながら、金剛たちは助かったのだろうか、と考えた(後に取り寄せた新聞で高雄は、事の全貌を知った)。全てをお膳立てするだけして、最後で折れた女は……何かをなし得ることができたのだろうか。自分は、何か価値あることをできたのだろうか? 溢れる涙を押さえながら高雄は、自分が愛宕の事に気づいてやれなかった事、自分についてばかり考えて、愛宕を思いやれなかった事を心底から悔やんだ。そればかり考えながら、虚しく外の風音を聞いていた高雄は、手紙が二枚あったことに気づいた。ぴったりと一枚目に重なっていたから、最初は分からなかった。目を擦り、涙を払い落としてそれを読む。

「きっとあなたはこれを読んだ後、無力感に苛まれたり、壊れてしまうほど、悲しくなったり悔しくなったりするかもしれません。でも高雄、気を落とさないで下さい。あなたは私達を導いてくれました。艦娘が、ただ虐げられるだけの道具ではなく、きちんと自分で考えて、時には抗うこともできる存在なのだと、教えてくれました。それは金剛ちゃんもそうですし、私にも教えてくれました。私には到底思いつかないことを、高雄、あなたはやってのけたのです。それは誇るべきことだと思います。

 きっとあなたは、事件の後は行方不明として処理されることでしょう。私もできるだけ根回しをします。だから高雄、あなたは外の世界に出て、私達、普通の艦娘にはできないことをたくさん経験して欲しいのです。あなたの体は折れても、心は最後まで折れなかった。私達にとって条件付けは恐ろしいものだけど、高雄は、そんな恐ろしい事にも抗うことはできるのだと、教えてくれました。私は、あなたの心がずっと遠くまで、真っ直ぐ、未来を見晴かすことができると思っています。艦娘だからこそ――普通の人間でないからこそ、よりたくさんの事をできて、たくさんの人や物を、救えると思うのです。

 あなたはどこにも属さない……はぐれ艦娘になってしまうわけだけれど、だけど、高雄ならきっとできると私は信じています。条件付けをくぐり抜けて、やり遂げてくれるだろうと信じます。高雄。あなたに出会えて、あなたと一緒にいられて、とても良かった。あの金剛ちゃんは救えなかったけれど、きっと私達は、他のたくさんの金剛ちゃんを助けることができると信じています。おかしなシステムを壊して、もっと、艦娘が人間らしく戦えるかたちを作り上げられると……

 そろそろ、スイッチを押さないと時間に間に合いません。走り書きでごめんなさい。高雄、あなたの未来を祈ります。

 たまに、手紙を下さい。さようなら

 愛宕より」

 全てを高雄は読み、それを二度ほど繰り返した。三度目にそれを読みはじめた時、また涙が溢れた。どうしても止まらなくて、彼女はやがてわあわあと大声で泣き始めた。やがてどこからやってきたかわからない涙が止まった頃、高雄は、自分が他の艦娘には担えない、特別な未来を――外に出た艦娘としての未来を――任された事をようやく知った。だから彼女は涙を拭くと起き上がり、艤装を身につけ、立ち上がった。鎮守府の処理は、愛宕がうまくやってくれるはず。

 なら次に成すべきは、自分の方だ。



 提督更迭後、愛宕もまた秘書艦を解任され、別の鎮守府へと移動した。利根や最上など、他の艦娘らによる口添えもあったし、かつての秘書としての腕を買われたせいか、現在も新しい提督――珍しい事に、女性提督だ――の下で秘書を行っている。他の艦娘らは愛宕を笑顔で見送り、彼女を励ましながら転属していった。金剛たちは各地で、提督と良い関係を築きながら戦力として戦えていると、時折ニュースで聞く。つい最近、テレビに《今の艦娘動静》として、最新鋭の装備を身につけた艦娘らや、とある事件の渦中にいた艦娘らの現況が映し出される。広報としての役割を担った彼女たちは笑顔でカメラに接するが、実際の環境も良さそうで、愛宕としては満足している。世間がある程度、艦娘に目を向けるようになった証拠なのだろう。

 不思議な事にあの鎮守府が廃止された後、周辺の鎮守府でも、金剛が立て続けに出現する現象は見られなくなった。戦艦のみでなく、重巡洋艦や空母などもバランス良く建造できるようになり、一方的な詰まりはなくなったと見て良い。果たしてやはり地理的な要素が関係していたのかもしれないが、全ては闇の中だ。もうあそこは更地にされ、艦娘たちが立ち寄ることもない。時折風変わりな研究者が立ち寄るかもしれないが、多分結果は出てこないだろう。

 それともう一つ、愛宕には別の楽しみが増えた。

 たまに彼女は偽名で手紙を送ってくる。名前は毎回変わるので、愛宕は積み残しの集配箱からいちいち取ってこなければならない。番の艦娘はその度に「ご友人が多いのですね」と口にするが、愛宕はだいたいニコニコしながら揶揄なのか知っての事かわからないその言葉を受け流す。彼女は廊下を歩き、部屋まで戻り、そして鍵を閉めて椅子に腰を落ち着ける。便箋は海外から送られてきた物が多いようで、国際色の入った便箋が多い。たまに国内の物もあるが、南だったり北だったりで、あまり落ち着いていない。偽名の下には【愛宕へ】とそっけなく書かれていて、これだけを見ても愛宕は笑ってしまう。八通目の手紙を見ていると、愛宕は胸の奥がうれしくなり、いっぱいになる。あの頃を思い出す。休みの日にベッドの上で行う事としては、なかなか贅沢な行為だと思う。

 ――こっちは食べ物がおいしいです。この辺りは深海棲艦の脅威が衰えていないので、たまに闇で護衛をしています(この辺り、微妙な場所は隠語で処理してある)。案外、闇で動いている艦娘が多くてびっくりしました。

 ――この前、夜の市場でダンサーたちが踊っていましたが、私もそこに加わって、ちょっと踊りました。愛宕に見せたかったです。

 ――弾薬を少し使いました。喧嘩が起こりそうだったので、一発威嚇射撃をしたのです。艦娘だとは思わなかったらしく、みんな腰を抜かしていました。その後はパーティーになって、大騒ぎでした。

 ――ここの景色は海もいいけれど、山がとても綺麗です。紅葉もいいです。愛宕や《うるさい金剛》にも見せてあげたいです。では、お元気で。

 いちおう足がつかないように写真などはなく、場所を示す文章も曖昧なものが多い。だけど、これはこれで楽しいし、想像のし甲斐がある。愛宕は鼻歌を歌いながら、手紙を上から見下ろして、二度目三度目を読み始める。終わったら、それを部屋の壁に貼り付ける……それが最近の習慣だ。たまにそれを覗く同僚たちには、海外に友人がいるの、と返す。

 そうして手紙が溜まるごとに愛宕は幸せになり、あの艦娘はどうしているだろうか、自分たちにはないものを経験しているだろうかと思い、彼女の道筋が良い物であるよう思わずにはいられない。深海棲艦と戦う事以外にも、おそらく艦娘に味わえる喜びというものがあるのだ。そう考えると、自分が経てきた物も、あながち悪いものではなかったかな、と思えてくる。外では海鳥の鳴き声が聞こえて愛宕を現実へと押し戻すので、彼女は業務を再開する。胸には火が灯っている。

 次はいつ彼女に会えるだろう。


《終わり》
復路鵜
2014年04月20日(日) 13時12分25秒 公開
■この作品の著作権は復路鵜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんだかんだで100kbを超えた作品でした。長い……長すぎる!
設定としては、《条件付け》の扱いにさりげなく苦労。こういうSFモノって、すごく大変ですね……! こういうのもうまく取り扱えるようになりたいものです。課題。

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